4.遺言について(遺言の種類)

 遺言には3種類あるのだけれど、一般的なものは自筆証書遺言と公正証書遺言の2種類です。自筆証書遺言は自分で誰に何をどのくらい相続させるかの内容を自分で書いて、日付と署名と押印をするというものです。これは一見簡単そうなのだけれど、母ちゃんが死んでから家庭裁判所まで封を開けずに持って行って「検認」という手続きをしなくっちゃならないので、めんどうです。お金はわずかしかかかりませんが、検認期日に家庭裁判所までまた出向かなくてはなりません。各相続人の前で、自筆証書遺言を開封するというわけです。これ、もし家庭裁判所に検認の手続きをせず開けてしまったらどうなるかというと、開封してしまったことを責め咎める他の相続人がいない限りはあまり実害はないです。基本、偽造とか何らかの作為とかがあった遺言書ではないという証明作業手続きですので。自筆証書遺言の必要要件さえ満たしていれば、遺言内容の法的効力には影響しません。(ただし、相続不動産の登記について自筆証書遺言を根拠にする場合は「検認」したものを求められるはずですので、お勧め的には「検認」は受けておくべきものです)

 でもね、母ちゃんは自筆証書遺言にはせず、公正証書遺言にするつもりです。なぜかというと自筆証書遺言は複製がないから。相続人の誰かに、その遺言書は違うと受け入れられなかった場合、母ちゃんが本心で残した遺言だと証明のしようがないわけよ。遺言は書き直すことができるから、以前の遺言書をつい破棄せず残しておいて複数の遺言書があった場合、日付の一番新しいものが有効とされるのね。ただ一つ残した遺言に、いやそんな内容の遺言など故人は思っていなかったとか、手元の遺言の他に書き直した新しいものがあるはずだなんて、言いがかりをつけられるのも嫌だからね。

 公正証書遺言ならば、公証役場の公証人のもとで法的アドバイスを受けながら作成できるし、母ちゃんの真意を証明してくれる証人も二人つけてくれて、何より原本を公証役場に保管してくれるから。だから、公正証書遺言を見つけたら、その場ですぐ開封しても大丈夫だからね。ただ、公正証書遺言は少し費用がかかるけれど、それはその保証内容からしたら当然だと思うよ。

 それと、公正証書遺言という公証人を通した遺言はやはり、相続人にとっては自筆証書遺言よりインパクトがあると思うのよ。母ちゃんが一番心配するのは、もし母ちゃんが父ちゃんより先に死んだ場合、残った父ちゃんが年並痴呆となっていて、正常で理性的な判断ができない状況になっているかもしれないということ。家の土地も建物も父ちゃん名義だから、これは成年後見制度を使うなりして、残ったあなた達に判断を仰ぎ、処理を頼むしかない。でも、会社だけはさっさと解散登記ができるように母ちゃんの持株をあなた達だけに残して、会社の解散登記手続きをお願いしたいから、これが母ちゃんの意思だからと突っぱねるだけの根拠となる公正証書遺言にしたいのよ。

 あ、母ちゃんの持株なんて言葉を使うと誤解を招くから、説明しておきます。これはあなた達がよく耳にする大きな会社の公開株とは違います。お金に換算する株というよりは、会社の運営に携わる株主総会での議決権というイメージの方が近いかな。特に家は赤字会社だから、株をお金に換算しても0円です。ごめんね。会社を解散させるのは自分達でするのは無理だから、必ず司法書士に依頼してね。司法書士が又行政書士や税理士に委任してトータルで依頼を受けてくれるからね。こちらも、当然費用がかかりますが、その費用くらいは残せるように頑張ります。

 母ちゃんは仕事で時々公証役場に出向くことがあったのだけれど、その時に何回か嫌な光景を待合室で見ました。年老いた婦人と娘さんという組み合わせの二人連れです。一生懸命娘さんがたぶんお母さんだろうという人に、ああだこうだと、饒舌に何かを話しかけ、お母さんはわけがわからないなりに頷いているという光景です。不思議とお父さんと娘。あるいはお父さんと息子という組み合わせにはあたりませんでしたね。せっかくの公正証書遺言であっても、その始まりに誰かの思惑が動いているというのは興ざめです。

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