母ちゃんの最後のお別れに涙してくれるか、はたまた大往生だと、それなりの納得をしてくれるかそれは分からないのだけれど、死んだ瞬間から相続は始まるやら葬儀の段取りをしていかねばならないやら、急にやることが押し寄せてきます。母ちゃんが子供の頃は、葬儀は隣近所で助け合い自宅から焼き場まで葬列をなし、法要の集まりすら村の会所で行っていました。その頃は、葬儀が出た家は何かと取り紛れているから、葬儀の段取りや煮炊きについてはなるべく葬儀をだしている親族を煩わせないよう同じ組内、班内の中で助け合って葬儀を行い、また組内で仕切ってくれる人がいたようです。
しかし、時代はどんどん変化し、葬儀のやり方も変化しました。今は自宅で葬儀を行うことなど本当にまれになり、たいていは葬儀会社を利用するようになりました。葬儀のありかたも多くの人が弔問におとなう賑やかで豪華な一般葬儀から、今ではこじんまりとした家族葬が主流です。葬儀を仕切るのも個人ではなく、葬儀社となりました。この葬儀会社を利用すると先ず一番に良いことは、葬儀会社が葬儀に関する全てのことの窓口になり、葬儀をプロデュースして、先導してくれるということです。
葬儀会社は幾つか有名どころがありますが、母ちゃんがお勧めするのは互助会員制度を設けている葬儀社です。母ちゃんも2社加入しています(一つ積立をしている内に近所に別の葬儀社ができたため)。会員となって葬儀費用を事前に積み立てる様式ですが、会員割引があることと、大きな出費となる葬儀費用にいくらかでも積立金で備えて置けるからです。
そして、何よりも葬儀のスタートを決めていると以後の葬儀がスムーズに行われます。例えば母ちゃんが病院で死んだとしましょう。そうすると、病院から葬儀社に遺体を移さねばなりません。病院サイドから、「どこか葬儀社を決めておられますか」と尋ねられます。葬儀社を事前に決めておくと、そこの葬儀社からお迎えのストレッチャーがやってくるという手はずになるわけです。その後はそこの葬儀社の葬儀の流れに任せて粛々と葬儀の手はずを整えていくだけです。葬儀社を決めていない場合は病院が自宅近くの葬儀社の適当なところを教えてくれて、そこから葬儀の流れに乗っていくようになります。
1番にやることは、葬儀社への連絡(深夜でも。亡くなってすぐに)。次にするのは旦那寺への連絡。家の宗教は浄土真宗です。旦那寺(おじいちゃんの葬儀・法要・納骨をお願いしたお寺です)もあります。連絡する時間はたとえ深夜、明け方の早い時間であっても、遠慮なく連絡をします。葬儀は限られた日数で行わなければならないので、旦那寺さんの段取りが葬儀の進行の基本となるからです。また、人が亡くなるとすぐに枕経(浄土真宗では正確には「枕経」とは呼ばないそうですが)をあげてもらうことが一番最初の儀式となります。この枕経をおがみに来てくれることを皮切りに、葬儀の打ち合わせを旦那寺さんとしていくことになります。旦那寺さんはその時の都合で「すぐ行きます」とか「朝何時に参ります」とか言ってくれます。
3番めに連絡をするのが、親戚です。親戚の誰に連絡をするのかというと、親戚総代にあたる人一人だけに連絡をして、「他の親戚の方には取り紛れておりますので、そちら様からの連絡をお願いしてよろしいでしょうか」と言い添えます(一般葬を行うつもりで、そして親戚付き合いが濃いならば、深夜以降に亡くなった場合朝の6時くらいに連絡を入れます)。そうすると、その人が連絡をせねばならない親戚には連絡をしてくれます。もし、家族葬を選んで、子供、孫、母ちゃんの兄弟だけで葬儀をするにしても、親戚総代にあたる人には「母は亡くなりました。つきましては葬儀は、親戚・一般の方の参列のない家族葬で行うつもりです。勝手申しますがご連絡のみでお許し願います」と連絡をしてね(家族葬を選ぶなら、深夜以降に亡くなったとしたら、午前7時くらいまで待ってから連絡してね)。
4番目はご近所です。一般葬でも家族葬でも深夜に亡くなったとしても、朝の7時くらいの連絡で大丈夫です。葬儀社の普及によって近所隣組の手伝いはほぼなくなりましたが、葬儀の間の受付のみ行うという手伝いが残りました。母ちゃんが嫁いで来たころは、深夜でも訃報連絡が入り、すぐに枕団子を用意するために、白い割烹着を来て同じ組の女性陣が動き始め、「団子は何個作るのだったけ」とか、「団子の固さ、これで良いかな」とかの声がゆきかっていました。だから、姑様に「団子の粉だけは切らさず買っておいて」と言われたものです。今ではこの枕団子も葬儀社の方が宗派による個数で用意してくれます。もし、家族葬にするならば「葬儀は家族葬でとり行おうと考えております。受付もない近所の方のお手の借りしろもない家族だけの小さな葬式です。生前の故人にはいろいろとお助けいただきましてありがとうございました。」と挨拶をしてお手伝いが必要ないことを伝えてね。
5番目は地元新聞の訃報欄への連絡です。これはタイミングを計って、葬儀社の方が声かけをしてくれます。地元新聞には「おくやみ欄」があり、県内だれが亡くなり、喪主が誰で、葬儀が何時から行われるかを告知する欄があるのです。葬式は「冠婚葬祭」の中でも義理の要素が入ります。親戚でも、近所でもない、喪主の知らない人でも亡くなった方との繋がりを持つ方が広く葬儀にやってきます。そういう人達にいちいち連絡をできないので、そこで地元新聞に掲載して広く告知するわけです。親戚・近所以外で葬儀に参加する参加しないは、その親交の深さ以外に、自分の所の葬式に来てくれた、来てくれていないという基準もあります。10年くらい前までは、たいていの葬儀が一般葬で、父ちゃんも母ちゃんもお葬式にはよく参列しました。一般的に葬式というものは故人との最後のお別れだから、縁が薄くても参列することがよしとされていたのです。だから、父ちゃん母ちゃんの世代が亡くなった場合一般葬にすると、「家の葬式に来てくれていたから」と義理を返してくる参列者が多くなる可能性があるわけです。
こういう義理を持つ人達は義理を返す相手に不義理をしてはいけないと、地元新聞の「おくやみ欄」をたいてい毎日見ています。父ちゃんも毎日見ています。もし、この告知をしなかった場合どうなるかというと、そういう義理のある人たちが「あとにはご不幸があったことを知らず、葬儀に参列できず失礼しました。故人には生前大変お世話になりました。せめて仏様にお線香をと思ってまいりました」と挨拶されて、仏壇までご案内するようになるのです。それが、ぽつぽつと何人か続くとちょっと大変です。また、葬式の参列者はお香典を持参されてきますので、そのお返しをその都度ぽつぽつと返していくのも大変です。ですので、100人前後の一般葬(家族、濃い親類だけでも25人。薄い親類が十数名。近所、隣組が10人。親交のある者・義理のある者50人)にするのならば告知をする方が後の処理が楽です。家族葬にするならば、告知は全く必要ありません。家族葬にして、濃い親類以外のお香典も一切受け取らないとすれば、後処理もぐっと楽になります。どういう葬式にするのかという選択をした後自分達の判断で決めてくださいね。
6番目は自治会長さん。こちらはどのような葬儀にするのかを選択した後連絡します。町内で人が亡くなり、その葬式があった場合、自治会長さんが止め焼香をするというのが一般的な葬式です。また、自治会費よりお香典が包まれて、それを自治会長さんがお香典として持参してきてくれます。ですので、自治会長さんに死亡の連絡をして、家族葬を選んだ場合は丁寧な参列のお断りを伝え、近所の人がお悔やみだけでも持って行こうかどうしょうかと気にやまないように、「失礼ながら、家族葬で葬式を行うので、お香典もお断りしようと考えております」と伝えるのです。これだけ伝えておいても、親交の深さからお香典だけでもと持ってこられる方もいるかもしれません。そういう場合は先ず弔問のお礼を伝え、そのうえで「他の皆様にもお断りをお許しいただいておりますので」とか言って数度お断りの辞を重ね、話の流れで最終に受け取ってあげてください。受け取ってもらえないかもしれないと思いながらも持参してくださるその気持ちをくむということです。
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