62歳になった母ちゃんが本当に心配していること。子供二人が結婚していないこと。こりゃ困った。いや、別に結婚をしようが、しまいが、早婚であろうが、晩婚であろうが構わないんだよ。でも、今家の中は母ちゃんが切り盛りしているから、もし母ちゃんが死んじゃったら、この家パニックになると思うのよ。だって、父ちゃんは66歳でもともと家の事にタッチせずでしょう。兄ちゃんだって31歳だけれど、会社務めの経験はないから、組織とか社会とか行政とか関わってないし。妹は会社勤務が長くて、一見しっかりしているようだけれど会社の仕事と家の切り盛りは全く別物だからね。
母ちゃん思うのだけれどね、経験していないこと、全く知らないことはできなくて当たり前なんだよ。物事一つずつ経験して一つ経験値をためる。ゲームだって一緒でしょう。経験値があってこそ、目の前の敵に対峙できる。だからこのまま兄も妹も結婚しなければ社会的経験値不足で、母ちゃんが死んでしまった後の生活に苦労すると。
母ちゃんは子供には過保護だから31歳と29歳の子供に対しても、してやれることはしてやりたいんだよ。母ちゃんはお金はあまり残してやれないけれど、知識と経験はそこそこにあるからね。でも、子供を生徒にして教えるわけにもゆかず、子供も上から教えるなんて言ったら反発するだろうし。だからね、母ちゃんが死んでから使えるマニュアルを作るよ。
甘い!甘すぎる!なんて言われるのは100も承知。だけど人類は言葉と文字を使って知恵を何十世紀も繋いできた。微力ながら母ちゃんも子供に経験と知識を残すよ。誰かと競争しているわけじゃない。近道を行ったからと、そしられる云われもないからね。それにね、ここで苦労をしなかったからと言って、子供たち二人に苦労がなくなるわけじゃない。苦労は誰にも等しく形をかえて降りかかるものだから、しなくていい苦労はしなくていいと思うだけだよ。
母ちゃんが死んでしまっても、このマニュアルを通して話をしよう。母ちゃんが痴呆になってしまっても、同じだよ。
死んでしまったらその後はどうなるのか分からない。母ちゃんの父ちゃん母ちゃんも教えてくれなかったからね。でも、どこからか見守れるものならば見守るよ。何もない世界に逝っても、自分を失ってもいつか同じ命としてどこかで会えるよ。きっと。
コメント